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――理事長・幹部の皆様へ

社会福祉法人の運営に携わる中で、指導監査の結果に一喜一憂されるお立場の方は少なくないと思います。指摘を受けること自体は決して法人の評価を貶めるものではありませんが、同じ性質の指摘が全国で繰り返されているという事実には、個々の法人の資質を超えた、構造的な背景があるように思われます。

厚生労働省が令和8年3月に公表した「社会・援護局関係主管課長会議資料」には、全国の所轄庁が指導監査において頻出すると認識している指摘事例がまとめられています。本稿では、この公開資料をもとに、経営陣として押さえておくべき視点を整理します。

目次

全国で共通して指摘されている事項

同資料では、国所管法人・自治体所管法人の別を問わず、次のような事項が繰り返し指摘されていると整理されています。

ガバナンスに関する事項

  • 評議員会の招集通知が、理事会の決議より前に発出されている事案
  • 理事長・業務執行理事による職務執行状況の報告が、法定の頻度(原則3か月に1回以上、定款で定めた場合は毎会計年度4か月を超える間隔で2回以上とすることも可)を満たしていない事案
  • 評議員会・理事会の議案について、特別の利害関係を有する評議員・理事の有無を確認した記録が残されていない事案
  • 理事長の変更や事務所所在地の変更など、登記事項に変更があった際に、登記が期間内に行われていない事案

会計管理に関する事項

  • 定款上の予算承認権限(理事長作成・理事会承認)と、経理規程上の権限(評議員会承認)とが整合していない事案
  • 拠点区分間の繰入金・移管金について、相殺消去の処理が行われていない事案
  • 法人が定めた経理規程と、実際の会計処理との間に乖離が生じている事案
  • 固定資産の実地棚卸が定期的に実施されていない事案

いずれも、意図的な不正ではなく、日常の運営の中で生じる手続上の齟齬に分類される事案として、所轄庁の資料に整理されているものです。

なぜ、同じ指摘が繰り返されるのか

これらの事例に共通するのは、「担当者の不注意」という個人の問題ではなく、法人という組織が時間の経過とともに抱え込む、構造的な不整合ではないかということです。

第一に、手続の順序がマニュアル化されていない問題があります。
評議員会の招集や理事の職務執行報告は、本来「誰が」「いつ」「どの順序で」行うかが法令で定められています。しかし、この順序が文書として明文化され、担当者の異動後も引き継がれる形になっている法人は多くありません。手順が個人の記憶や過去の慣行に依存したまま運用されると、決議を経るべき順序が入れ替わる、あるいは必要な手続が抜け落ちるということが起こり得ます。

第二に、規程と実務が経年で乖離していく問題があります。
制度改正や組織の拡大があった際、定款や経理規程の文言は改定されても、それに伴う伝票起票のルールや決裁ルートの再設計までは手が回らないことがあります。結果として、規程上の建付けと現場の運用実態とが、少しずつずれていきます。

第三に、確認・照合のプロセスが確立されていない問題があります。
理事会で承認された計算書類の内容と、その後の届出・報告に用いられる数値との突合が、明確な担当と手順のもとで行われているとは限りません。この確認工程が制度として組み込まれていない場合、不一致は発見されないまま積み重なっていきます。

これらはいずれも、法人が成長し、事業や拠点が拡大していく過程で自然に生じうる課題です。むしろ、法人の規模や沿革を考えれば、こうした不整合が生じていないことの方が珍しいとも言えます。

経営陣に求められる視点

指導監査への備えというと、現場への注意喚起や研修の実施が思い浮かびますが、上記の分析を踏まえると、それだけでは十分ではありません。

必要なのは、現場の担当者が意識せずとも正しい手順を踏める状態を、仕組みとして用意することです。招集通知の発出順序、職務執行報告の実施時期、規程と実務の整合性、計算書類の確認プロセス――これらは、個々の職員の注意力に委ねるべき事柄ではなく、経営陣の責任において設計し、定期的に点検すべき仕組みの問題です。

指導監査における指摘は、法人の運営を否定するものではなく、こうした仕組みの点検を促す機会と捉えることができます。


次回以降は、本稿で取り上げた事例をもとに、【ガバナンス編】【会計管理編】として、経営陣が確認すべき具体的な点検項目と、その運用の考え方を順次ご紹介してまいります。

当事務所では、計算書類の作成にとどまらず、こうした指導監査に耐えうるガバナンス体制・会計業務フローの構築についても、法人の実情に応じた支援を行っております。ご関心をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

出典:厚生労働省「令和8年3月 社会・援護局関係主管課長会議資料(資料6:福祉基盤課)」参考資料2-1〜2-3

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