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社会福祉法人の指導監査でよくある不備とその対策【会計管理編】

――理事長・幹部の皆様へ

前回は、評議員会・理事会の運営に関わる「ガバナンス関係」の指摘事項を取り上げました。第3回となる今回は、会計管理に関する頻出指摘事項を整理します。

目次

「資金は回っている」ことと「数字が正しく作られている」ことは別問題

理事長が日々気にされているのは、資金収支差額が想定通りに残っているか、資金繰りに問題はないかという点だと思います。会計処理の細かいルールは事務方に任せている、という法人がほとんどではないでしょうか。それ自体、自然な役割分担です。

しかし、「資金が今ちゃんと回っている」ことと、「その資金の数字が仕組みとして正しく作られている」ことは、別の問題です。理事長が見ている資金繰りの感覚が正しくても、その数字の裏側にある会計処理――拠点間の内部取引の相殺、固定資産の管理、書類間の整合性――に穴があれば、指導監査では指摘を受けます。逆に言えば、「今のところ資金は困っていないから大丈夫」という安心感の陰に隠れやすいのが、今回取り上げる指摘事項です。

1. 数字の裏側にある、よくある落とし穴

厚生労働省の資料や、それに基づく各所轄庁の指導監査基準を見ると、会計管理に関する指摘として次のような事項が挙げられています。

規程・体制に関する事項

  • 定款上の予算承認権限(理事長が作成し、理事会が承認する事項として定めている)と、経理規程上の権限(評議員会の承認を要すると定めている)とが整合していない
  • 経理規程の内容に、法令又は通知の内容と整合しない不備がある

会計処理に関する事項

  • 収益及び費用が発生した会計期間に、適時適切に計上されていない
  • 拠点区分間の繰入金・移管金について、相殺消去の処理が行われていない
  • 固定資産の実地棚卸が定期的に実施されておらず、経理規程に定められた固定資産現在高報告書の作成・固定資産管理台帳との照合・理事長への報告という一連の流れが機能していない

書類の整合性に関する事項

  • 計算書類の注記事項が、計算書類本体の記載内容と一致していない
  • 作成が必要な附属明細書が作成されていない、又は計算書類と附属明細書の内容が一致していない
  • 財務諸表等電子開示システムに登録する内容が、理事会で承認された計算書類の内容と一致していることを確認しないまま届出されている

これらは、いずれも所轄庁の資料において、複数の法人で継続して見られる事例として整理されているものです。中でも「拠点区分間の相殺消去」と「固定資産の管理」の2つは、資金繰りの数字そのものの信頼性に直結するため、後ほど改めて取り上げます。

2. なぜ、こうした落とし穴が生じるのか

前回のガバナンス関係が「順序」と「記録」という二つの規律の問題だったのに対し、会計管理関係の指摘の多くは、会計基準・規程・実務という3つの層の間のズレに集約されると考えられます。

① 規程どうしのズレ

定款と経理規程は、本来同じ法人の意思決定権限を定めたものであるにもかかわらず、片方だけを改定した際にもう片方への反映が漏れる、ということが起こり得ます。予算の承認権限を理事会とするか評議員会とするかという基本的な点で、定款と経理規程の記載が食い違っているケースは、この典型と考えられます。同様に、経理規程の内容が会計基準や関連通知の内容と整合していないケースも、この層のズレに含まれます。

② 規程と実務のズレ

拠点区分間取引の相殺消去や、固定資産の実地棚卸は、経理規程や会計基準上のルールとしては明確に定められています。しかし、拠点や事業が増えるにつれて取引のパターンも複雑化するため、規程が定める処理方法を、日々の伝票処理の中で漏れなく適用し続けることが徐々に難しくなっていく、という構造があるように思われます。

③ 実務内での確認・照合の欠如

固定資産現在高報告書と固定資産管理台帳の照合、計算書類と附属明細書の整合性確認、電子開示システムへの登録内容と理事会承認内容の一致確認――これらはいずれも、「作成した書類同士を突き合わせる」という、実務の中の最後の確認工程に関する指摘です。個々の書類は作成されていても、複数の書類間の整合性を確認する工程が明確な担当・手順として組み込まれていない場合、不一致に気づかないまま計算書類が確定してしまうことがあります。

3. 経営陣に求められる視点

理事長がすべての会計処理を細かく理解する必要はありません。しかし、資金の数字の信頼性に直結する部分については、理事長自身が定期的に目を通す価値があります。

理事長自身が確認しておくべきこと

  • 拠点区分間の内部取引が、毎月の試算表の中で相殺されずに残っていないか。相殺されないまま残高が積み上がっていると、法人全体の資金繰りの数字が実態とズレて見える可能性があります
  • 資金収支計算書上の資金収支差額が、当初の事業計画・予算と大きく乖離していないか。乖離がある場合、その原因が単なる時期のズレなのか、規程通りに処理されていないことによるものかを、事務方に確認する
  • 固定資産現在高報告書を、経理規程で定められた頻度で自分(理事長)が受け取っているか

これらは、細かい仕訳のルールを理事長が理解する必要はなく、「見えている資金の数字が信頼できるかどうか」を確認するという視点で足ります。

事務長・経理担当者に指示しておくべきこと

  • 定款と経理規程の予算承認権限の記載を一致させること
  • 固定資産の実地棚卸を年間スケジュールに明確な実施時期として位置づけ、棚卸結果を固定資産現在高報告書としてまとめ、固定資産管理台帳と照合したうえで理事長に報告する、という一連の流れを決算フローに組み込むこと
  • 計算書類と附属明細書は、理事会に諮る前の段階で内容を突き合わせて整合させること
  • 電子開示システムへの登録内容は、理事会承認後に、承認された計算書類の内容と一致しているかを突き合わせる工程を決算フローに組み込むこと

こちらは実務の詳細まで理事長が把握する必要はなく、「この工程を仕組みとして持っているか」を確認し、担当者に指示を出すことで足ります。

こうした役割分担を一度仕組みとして定着させれば、理事長は日々の資金の状況を見ることに集中しながら、その数字の信頼性を担保する仕組みは事務方に委ねる、という体制を維持できます。

今日、確認していただきたいこと

一つだけ、今すぐ確認できることをご提案します。

直近の月次試算表で、拠点区分間の内部取引(繰入金・貸付金など)の残高が、相手方の拠点ときちんと相殺され、ゼロになっているかを見てみてください。

もし相殺されずに残高が残っている場合、それは法人全体の資金の数字が、実態より膨らんで(あるいは不足して)見えている可能性がある、というサインです。事務方に「なぜ残っているのか」を確認するだけで、資金の数字の信頼性を一段階高めることができます。


これまで3回にわたり、指導監査で頻出する指摘事項の傾向と、その背景にある構造的な課題を整理してまいりました。次回以降は、個別のテーマについて、より実務的な点検方法を掘り下げてご紹介する予定です。

当事務所では、こうした指導監査に対応し得る会計業務フロー及びガバナンス体制の構築について、法人の実情に応じた支援を行っております。

出典:厚生労働省「令和8年3月 社会・援護局関係主管課長会議資料(資料6:福祉基盤課)」参考資料2-3〜2-4、厚生労働省「社会福祉法人指導監査ガイドライン」(Ⅲ 管理 3 会計管理)/関連規定:社会福祉法、社会福祉法人会計基準(厚生労働省令)

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