【社会福祉法人】就労継続支援の賃金・工賃、会計から確かめていますか:理事長と会計責任者・会計担当者で確認したいこと

この記事の要点
- B型は生産活動の差額ゼロが原則、A型は雇用契約のある利用者の賃金をまかなえているかを見ます
- ただし、職員の人件費や家賃の分け方がずれていると、差額の数字は信用できません
- 理事長は、会計責任者・会計担当者に3つの質問をして確かめておきたいところです
結論
就労継続支援の賃金・工賃が適切に払われているかを確かめる出発点は、決算書の就労支援事業の明細書にある、生産活動の差額(生産活動の収入から、経費と利用者の賃金・工賃を差し引いた額)です。見方は、A型とB型で違います。
B型:差額はゼロが原則です。生産活動の収入から必要経費を差し引いた額は、原則として工賃として利用者に払う決まりだからです。
- 差額が残っている:決められた積立金の条件を満たしていなければ、利用者への払い不足です
- 差額が赤字:工賃をどのお金から払ったかを確かめます。過去3年間の最低工賃を下回った年度に、所定の要件を満たせば、理事会の議決を経て工賃変動積立金を取り崩して補填できます。一方、給付費などから工賃を補填することは、原則として認められません
A型:生産活動の収入から必要経費を差し引いた額で、雇用契約を結んでいる利用者の賃金の総額をまかなえているかを見ます。
- まかなえている:この基準は満たしています(差額が残った場合の扱いは下で説明します)
- まかなえずに赤字:足りない賃金を、国保連から事業所に入る給付費(報酬)で補っている疑いがあり、これは原則として認められません。また、この基準を満たしていないA型事業所は、原則として経営改善計画書を作成し、指定権者に提出することが求められます
ただし、どちらの場合も、差額が正しく計算されていることが前提です。費用の分け方がずれていると、差額の数字そのものが信用できなくなります(下で説明します)。
理事長がやること:会計責任者に聞く3つの質問
会計責任者に、次の3つを聞いてください。
- 「生産活動の差額は、いくらですか」
- 「職員の人件費や事業所の家賃は、福祉事業と生産活動に正しく分けられていますか」
- 「事業所の工賃の集計と、会計の数字は、誰が突き合わせていますか」
3つ目が意外と大事です。工賃の計算は事業所、報酬の請求は請求担当、決算は経理と、数字を扱う人が分かれていて、間をつなぐ人がいないことがよくあります。
B型では、平均工賃月額が報酬の区分にも関わるので、工賃を正しく払いきることは、事業所の経営にも直結します。
理事長に押さえていただきたいことは、ここまでです。ここから先は、背景や詳しい理由を知りたい方に向けて、気になる問いごとにまとめています。
差額がゼロでも安心できないのはなぜ?
差額がゼロ(B型)やプラス(A型)でも、費用の分け方がずれていると、数字の意味が変わります。
福祉事業の費用を、生産活動の経費に入れている
本来は福祉事業の費用であるものを生産活動の経費に入れると、差額は小さく見えます。B型なら、本当はもうけが出ているのに差額がゼロに見え、払うべき工賃が小さくなります。よくあるのは次の3つです。
- 職員の人件費:利用者の支援をする職員(人員配置基準内の職員や、加算の対象になっている職員)の給料は、福祉事業の費用です
- 事業所の家賃や建物の減価償却費:原則として福祉事業の費用です。ただし、商品・製品の保管専用の倉庫や、生産活動に使う機械など、専ら生産活動のために必要なものの費用は、生産活動の経費になります。指定を受けた事業所の訓練・作業室の家賃は、福祉事業の費用です
- 両方にまたがる費用(水道光熱費など):分け方の基準を決めて文書にし、毎年同じ基準で分けます
逆に、生産活動の経費を、福祉事業の側に入れている
材料費など生産活動の経費を福祉事業の側に入れると、差額は大きく見えます。A型なら、本当は赤字なのに賃金をまかなえているように見えます。また、本来は生産活動で負担すべき経費が福祉事業に計上され、給付費で賄っているように見えるおそれもあります。
数字で見ると
B型の事業所で、説明のための仮の数字です。
| 正しい分け方 | 人件費100万円を誤って生産活動に入れた場合 | |
|---|---|---|
| 生産活動の収入 | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 帳簿上の生産活動の経費 | 300万円 | 400万円 |
| 帳簿から計算される工賃の額 | 700万円 | 600万円 |
どちらも、計算された額をそのまま払えば、明細書の差額はゼロになります。それでも右の場合は、本来払うべき工賃は700万円なのに、600万円しか払われていないことになります。
費用の分け方が正しいことは、差額の数字を信頼するための大切な前提です。
差額が残りそうなとき、残ったときは?
B型で生産活動のもうけが残りそうなとき、残ったときは、時期によって取れる方法が違います。生産活動の収入から必要経費を差し引いた額は、原則として利用者に工賃として払う必要があり、職員の賞与など、利用者以外のために使うことはできません。
年度の途中で、残りそうだと分かったとき
1. 年度内に、工賃として追加で払う
期末の一時金などとして、利用者に追加で払う方法です。手当や賞与も、名称を問わず工賃に含まれます。
ただし、年度末の差額を事前にぴったり予測することは難しいものです。そのため、あらかじめ工賃規程に期末一時金の計算方法や配分基準を定め、毎月の試算表で生産活動の収支を確認しながら、年度末の2〜3月に追加支給を検討しておくことが大切です。
決算で初めて差額が残っていると気づいても、工賃の支給時期や会計処理によっては、当年度の工賃として扱えない場合があります。
決算で差額が残る場合は、積立金も検討する
2. 要件を満たせば、工賃変動積立金に積み立てる
将来、生産活動の売上が落ちたときにも工賃を下げずに払えるよう、積み立てておく方法です。毎年の積立額と積立ての合計額には、上限があります(会計責任者の方へのチェックリストを参照)。
3. 要件を満たせば、設備等整備積立金に積み立てる
生産活動に使う設備の更新や、新しい作業のための設備に備える方法です。こちらも、毎年の積立額と合計額に上限があります。
2と3は、当年度の賃金・工賃が前年度を下回っていないことが条件で、理事会の議決を経て、同じ額の積立資産(預金など)を用意する必要があります。工賃を下げた年に積み立てることはできません。千葉県も、令和7年度の集団指導で「積立金の要件にそぐわないのにも関わらず、積立金を計上しているケースが散見されます」と注意を促しています。
積立金は、差額が生じた年度の決算に計上します。決算後の理事会で承認する場合も、翌年度の積立金として計上するわけではありません(運用上の留意事項19(2))。
要件を満たさずに差額が残った場合は、早めに指定権者に相談してください。
どちらの場合も
4. 来年度の工賃の単価を見直す
毎年もうけが残るなら、工賃の時給や出来高の単価そのものを引き上げることを検討します。毎年の一時金で調整するより、利用者にとって見通しの立つ形になります。
なお、A型では、まず雇用契約を結んでいる利用者の賃金を、生産活動の収入でまかなえているかが基準です。そのうえで差額が残る場合も、自由に残してよいわけではありません。賃金への還元や、要件を満たした積立金への積立てで扱います。
なぜ今、確かめておくべき?
厚生労働省は令和7年11月28日に、「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」を県や市(指定権者)に示しました。A型の質の確保・向上と、B型で自立支援給付費から利用者への工賃を補填するなど不適切な運営をしている事業所があるという指摘を踏まえたものです。
このガイドラインでは、運営指導の際に、次のような点を確認するよう求めています。
- 決算書などで、生産活動の収入よりも、支払った賃金・工賃の総額が高くなっていないか
- 福祉事業の会計と生産活動の会計を区分しているか、就労支援事業の明細書などを作成しているか
- A型のスコアやB型の平均工賃月額を、給付費で補った金額を含めて計算していないか
あわせて、事業所の生産活動の収支や賃金・工賃を一覧にする「生産活動シート」が示され、運営指導や毎年4月の報酬の届出の際などに、必要に応じて提出を求めることも想定されています。鹿児島市のように、令和8年度以降の運営指導から、事前の提出資料として求めることにした自治体もあります。
この記事で見ている差額や費用の分け方は、これからの運営指導で、提出された資料で確かめられる場面が増えていくと考えられます。
実際にどんな指摘がある?
こうしたずれは、実際に行政の検査で指摘されています。東京都福祉局指導監査部が公表している資料では、就労支援事業所の実地検査で見受けられる事例として、次のようなものが挙げられています。
- 就労支援事業の明細書(就労支援事業別事業活動明細書、製造原価明細書、販管費明細書)を作成しておらず、必要な経費を算定していない
- 収支差額がゼロになっておらず剰余金が出ているのに、利用者への還元も積立てもしておらず、使い道が不明確
- 人員配置基準で置くことが決められている職業指導員や生活支援員の給料を、生産活動の経費(就労支援事業指導員等給与)に入れている。生産活動の経費にできるのは、基準を超えて、生産活動に専ら従事する職員として雇った人の給料だけです
- 当年度の賃金・工賃の支払額が前年度を下回っているのに、設備等整備積立金や工賃変動積立金を積み立てている
- 事業の間で共通する経費(人件費、水道光熱費など)を、合理的な基準で按分せず、一方の事業だけから払っている
千葉でも同じです。千葉市が令和8年3月に公表した集団指導の資料では、運営指導での主な指導事項として、次のようなものが挙げられています。
- B型で、工賃の支払いに、自立支援給付や役員からの寄付金などを充てていた(工賃は、生産活動の収入から必要経費を差し引いた額で払う)
- 工賃の目標水準や、前年度の平均工賃を、利用者に通知していなかった
- 事業所・サービスの種類ごとに会計を区分しておらず、就労支援事業の会計も事業所ごとに分けていなかった
参考までに、千葉県が令和8年10月に公表した令和7年度の平均工賃(賃金)の実績は、B型で月額25,733円、A型で月額89,371円です。自法人の数字と比べる目安になります。
こうした問題の多くは、会計の数字を確かめることが、気づくきっかけになります。ただし、利用者への通知のように数字には表れないものもあるので、工賃の計算資料や事業所での実際の運用もあわせて確かめておきたいところです。
会計責任者の方へ:確認のチェックリスト
理事長からこの記事を受け取った会計責任者の方に向けて、細かい確認の点をまとめました。
- □ 就労支援事業の明細書(就労支援事業別事業活動明細書、製造原価明細書・販管費明細書、または就労支援事業明細書)を作成しているか
- □ 生産活動の収支は、資金収支ではなく、損益(収入は実現主義、経費は発生主義)で判定しているか
- □ 人員配置基準内の職員や、報酬・加算で評価されている職員の人件費を、福祉事業活動の費用にしているか(生産活動の費用にできるのは、基準を超えて生産活動に専ら従事する職員の人件費)
- □ 指定を受けた事業所の家賃や建物の減価償却費は、原則として福祉事業活動の費用にしているか
- □ 両方にまたがる費用の按分基準表を作成し、毎年同じ基準で按分しているか
- □ 工賃変動積立金・設備等整備積立金について、各年度の積立限度額と累計上限額を守っているか。積立時には、当年度の利用者賃金・工賃の支払額が前年度の実績を下回っていないか、理事会の議決を経て同額の積立資産を計上しているか(運用上の留意事項19(3))
- □ 工賃変動積立金を取り崩す場合、過去3年間の最低工賃(天災等で大幅に減少した年度を除く)を下回るという条件を満たしているか。理事会の議決、積立金・積立資産の取崩し、利用者への補填工賃の支給を確認しているか
- □ 積立金の取崩しによる補填と、当年度の生産活動の収支の評価(赤字の原因)を分けて確認しているか
- □ 法人内部の取引(自法人の製品を他の事業で使う、法人内の清掃を受託するなど)を、合理的な価格で生産活動の収入にしているか
- □ 工賃は、手当や賞与など名称を問わず、利用者に支払ったものをすべて数えているか
- □ B型の平均工賃月額を、令和6年度改定後の計算式(年間工賃支払総額÷(年間延べ利用者数÷年間開所日数)÷年間開所月数(原則12か月。年度の途中で指定を受けた場合などは実際の月数))で出しているか。平均工賃月額の計算に使った年間工賃支払総額と、工賃台帳・会計上の利用者工賃を突き合わせ、年度末の未払分などの差を説明できるか
- □ 逆に、材料費など生産活動の経費を、福祉事業活動の側に入れていないか
- □ 賃金・工賃の支払いに、給付費(自立支援給付費)を充てていないか(A型は第192条第6項、B型は第202条で準用。災害などやむを得ない場合を除く)
- □ B型の平均工賃月額やA型のスコアを、給付費で補った金額を含めずに計算しているか。生産活動シートなどに書く賃金・工賃の総額と、報酬区分の届出の数字に差がないか
- □ B型の報酬区分は、最新の告示と指定権者の案内で、適用される区分と経過措置を確かめているか
- □ A型で雇用契約を結んでいない利用者がいる場合、生産活動の収入から必要経費(雇用契約を結んでいる利用者への賃金を含む)を差し引いた額を基礎として、工賃を適切に計算・支給しているか。積立金を計上する場合は、所定の要件を満たしているか
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ご相談について
判断に迷う点は、指定権者(県・市)や、顧問の会計事務所・税理士にご相談ください。当事務所でも、就労支援事業の会計の分け方の確認などのご相談をお受けしています(お問い合わせ)。
根拠の一覧
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準 第192条(A型の賃金)、第201条(B型の工賃)(e-Gov法令検索で原文をご確認ください)
- 厚生労働省 令和3年度障害者総合福祉推進事業「就労支援事業会計の運用ガイドライン」(令和4年3月)
- 東京都福祉局指導監査部「会計経理」(障害福祉サービス検査の資料)
- 神戸市福祉局監査指導部「運営指導における指摘事例(就労移行支援・就労継続支援A型・B型編)」
- (上記の補足)第192条第2項はA型の「生産活動の収入−経費≧賃金総額」、第192条第6項と第202条(B型への準用)は「賃金・工賃に給付費を充ててはならない」
- 社会福祉法人会計基準と、同基準の運用上の取扱い(就労支援事業の明細書)
- 厚生労働省「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドラインについて」(令和7年11月28日 障障発1128第1号)
- 千葉県「適切な工賃(賃金)の支払いについて」(令和7年度 指定障害福祉サービス事業者等に対する集団指導)
- 千葉市「障害福祉サービス事業者等 運営指導における主な指導事項等について」(令和8年3月)
- 鹿児島市「令和8年度指定障害福祉サービス事業者等集団指導 個別資料(就労系サービス)」
- 千葉県「工賃(賃金)実績の公表」(令和8年10月28日更新、令和7年度実績)
- 「指定就労継続支援A型における適正な運営に向けた指定基準の見直し等に関する取扱い及び様式例について」(平成29年3月30日 障障発0330第4号):第192条第2項を満たさないA型事業所の経営改善計画書
- 厚生労働省「社会福祉法人会計基準の運用上の留意事項について」(平成28年3月31日、最終改正 令和3年11月12日):19(3)就労支援事業に関する積立金(工賃変動積立金・設備等整備積立金の積立て・取崩しの条件)
この記事は令和8年11月時点の情報にもとづいています。報酬の区分などは改定されることがあるため、実際の対応にあたっては告示・通知の原文と、指定権者(県・市)の案内をご確認ください。千葉県内の法人は、千葉県または所在地の市の案内もあわせてご確認ください。

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